オイスターズ第12回公演 『田』



オイスターズ第12回公演 

 
『田』 
作・演出:平塚直隆

2012年11月23日(金)〜25日(日) 千種文化小劇場

名古屋市芸術文化団体活動助成事業

歴史小説を読んでいると、「フィクションには興味がないのだよ、事実だけが知りたいのさ」と兄が言った。
しかし事実が書かれた歴史書なんて存在するのですか?
見た事をありのままに書くなんて不可能だし、写真も動画も簡単に改ざんすることができるし、そうなると自分で実際に見たものしか信じられないようになるとか言うけど、そもそも見えているものが本当かどうかはもはやわからない世界になっているし、そう考えると見ている自分の感覚すらおかしいような気になってきて、自分というものが信じられなくなる。
現に僕には兄なんて居ない訳だし…

■CAST
山田マキオ 古川聖二 田内康介 吉田愛  二瓶翔輔 河村梓 高瀬英竹

■STAFF
舞台監督/柴田頼克(電光石火一発座・かすがい創造庫) 演出助手/空沢しんか  照明/今津知也(オレンヂスタ)
宣伝美術/奥田マニファクチュア 制作協力/空沢しんか・ココノネココ(フリー)  劇団スタッフ/中尾達也・伊藤寛隆・新美要次
企画・制作/オイスターズ
 

 オイスターズの新作「田」(平塚直隆作・演出)は、演劇ならではの面白さを示す舞台だった。何もない空間に役者が立ち、せりふを発すれば何かしらの世界が立ち上がる。一人が何役を演じても、何人で一役を演じても同じ。この作品はその演劇的手法を遊びながら、人間の想像力と認識について語った。
 一人の男が舞台中央に立っている。彼は自分が見ている世界は自分が創っていると信じ、愛する妹が幸せになる世界を創りたいと願っている。舞台はその妹の誕生から十代までの彼と妹の幾つかのエピソードで、もちろん彼の思いのままになるはずのない数々だ。  それを彼が中央に立ち、周囲の友人や家族は舞台上のある位置に立てばその人物になるというルールで見せていく。役者たちはそれぞれの位置に立つことで何役も演じるし、また一つの役も何人もの役者が演じる。時にはあるせりふの途中から役者が変わったりする。この作りと運びがまずは刺激的だった。  だがこの作品はそれだけを追求したわけではない。むしろこの作りで見えてくるのは、自分の創造と思い込んでいる世界は、彼の認識にすぎないこと。そしてその認識はとても狭く、曖昧だということだ。一つの役を何人もの役者が演じても同じ個人と見えるのは、演劇ならではの想像力の仕組みによる。と同時に対象を正確には認識していないことをも示すのだ。そして主人公のような主観のエリアの重なりが世界なのではないか、と。とぼけた会話とこの実験性と批評性で抜群に面白い。役者たちの奮闘がその面白さを支えた。
                                                   2012/12/8 中日新聞 安住恭子の舞台プリズム