◆ 劇評が掲載されました ◆
オイスターズの新作「豆」(平塚直隆作・演出)は、豆と種の違いは?という問いから始まる奇妙な舞台だ。のんきな展開とシュールな世界を作る手つきは相変わらずだが、より複雑になっている。
三畳一間の小さな部屋を時間単位でルームシェアする人々の物語。当初はその部屋に住む男と友人が、働く時間帯が真逆なことから時間を折半して使うことに。ところがわずかの時間の隙間を別の友人に譲り、その男の恋人も一緒に来、隣の奥さんも参加し…と、部屋に集まる人間が増えていく。住人の主体があいまいになり、使用時間とお金の割り振りもどんどんややこしくなる。
それだけでもおかしいのが、さらにシェア後の彼らの会話のほとんどは、連絡ノートに書かれた言葉によるという設定だ。つまり一つのやりとりは丸一日かかるわけで、会話には膨大な時間が流れていることになる。この密度と弛緩。しかも答えない人や、ウソを書き込む人がいたり、それらのセリフを語るのも本人の場合と読んだ人の場合とがあったり、その上彼らとは関わりなくノートを読んでいる男も登場し−。
こうした何重もの仕掛けで、舞台はナゾと混乱を極める。だがさほど隠された意味はなく、この舞台はひたすらその混乱と迷宮の面白さを追求したようだ。そして狭い部屋でぎゅうぎゅう詰めに時間をシェアしていくさまは、そこから芽が出て大きく育つ要素の詰まった、<種>という小さな生命体を思わせた。あくまでも脱力系の会話劇で種と豆の迷宮を見せた。
2012/5/12 中日新聞 安住恭子の舞台プリズム |