2013佐藤佐吉演劇賞優秀脚本賞受賞
オイスターズ第15回公演 『ここでいいです』 作・演出/平塚直隆
「タクシーを捕まえる」と言っても僕は警察ではないし、「タクシーを拾う」とはどれほどの大男なのでしょうか?と
運転手に聞いたら無視された。
ここ「で」いいです。と、ここ「が」いいです。は全く違う様に思えて実は同じで、それは信頼関係の違いなんですね。
僕には本当の事を言いたくないだけでそこには何か知られたくないとても良い物があるんですよね?と続けたら降ろされた。
見上げると「幸せの黄色いハンカチ」が揺れていた。
出演/中尾達也 田内康介 吉田愛 河村梓 諸橋辰彦 高瀬英竹 ヒート猛(スクイジーズ)
七ツ寺共同スタジオ
2014年2月28日(金)〜3月3日(月)
アフターイベント
★作・演出の平塚直隆自らが今回の作品について解説するほか、皆さまからの質問にお答えします。(聞き手:中尾達也)
☆アフタートークゲスト:佃典彦氏(劇団B級遊撃隊主宰、劇作家・俳優)
オイスターズの「ここでいいです」(平塚直隆作・演出)は、映画「幸福の黄色いハンカチ」から着想した作品だ。刑務所帰りの男を、妻は黄色いハンカチをかけて待っているかどうか…。万感の思いで見に行こうとする映画の最後の数分を、一本の芝居に引き延ばしてみせた。
若い男女が中年の男を車に乗せて、とある街角までやってくる。その角を曲がれば、男の住むマンションが見える。ところが男は見に行こうとしない。通りすが
りの人を出合い頭に殺したり、拉致監禁したり、近所のアパートに部屋を借りたりと、見に行くことを引き延ばし続けるのだ。そんな男と彼を支えようとする青
年、イライラしながらつい協力してしまうその恋人らの珍妙な時間を描いていく。
動きたくても動けない一種の「ゴドー」型の不条理劇で、決定的瞬間を引き延ばすためにとっぴな行動を取る男と、それに振り回される周囲の人間のさまだ。そ
こにかれらを縛る要素を二つ絡ませる。一つは学生時代のある体験が青年に男にかかわる続けさせること。また見に行かないうちは希望が持てるという男の倒錯
した論理だ。その論を聞いて監禁された男が彼を尊敬するという、さらに倒錯した状況も生まれる。つまり心が行動を縛るのだ。 確かにこの運びはうまい。ただ男の暴力性が笑いを引き出すだけだったことに不満が残る。なぜ彼は簡単に人を殺すのか。そこに渦巻く不安や身勝手な防衛本能 等々をもっと見つめ、普遍化する作業が必要ではないか。ただ単に不可解さを提示するのではなく、その不可解な人間への洞察の深さが、不条理劇を成立させる と思う。 2014/3/22 中日新聞 安住恭子の舞台プリズム
|